昭和11年(1936年)11月末に帰国後、インドでの香雪の偉業を称え、日本美術院(⇦リンク)の主要な会員による帰国歓迎会が開催されました。壁画揮毫の任を受けてから帰国するまで足掛け5年間(昭和7年7月~同11年11月までの4年4ヶ月)の長期にわたる大仕事でした。
出所:「野生司香雪~その生涯とインドの仏伝壁画~」(壁画完成80周年を記念して)
著者:溝渕茂樹、中村義博
発行:生田要助
発行所:(株)イクタ
野生司香雪顕彰会
発行日:2016年12月8日
何故に福井県の永平寺に野生司香雪がインド・サールナートで描いた仏伝壁画の原寸大の下絵(下図)が残されているのだろう。
この下絵の来歴を知ると、これは単なる偶然ではなく、「仏縁」なのだと、また人々に繋がっていく善意の連鎖に心打たれずにおられません。
野生司香雪は、インドから帰国する時に持ち帰った原寸大の下絵(下図)をどうすべきか考えていました。そんな折、昭和22年のある日、善光寺からさほど遠くない曹洞宗昌禅寺の佐藤賢乗住職が訪ねてきて、数年先の永平寺高祖大師七百回遠忌に合わせて大師の肖像画揮毫の依頼をしてきました。この時に下絵のことを聞いた佐藤住職は永平寺への下絵献納を思い付き、香雪と永平寺双方の了解を取り、それが実行に移されることとなりました。
昭和23年の春四月に下絵の献納式、開眼供養が執り行われました。4年後の昭和27年に高祖大師の七百年遠忌で下絵も公開されましたが、その2年後には再び倉庫に収納されてしまいました。それから20年の歳月が経ち、再び人々の前に披露される連鎖の縁が始まりました。長野県の宮川洋一氏(現在は野生司香雪画伯顕彰会会員)はインド旅行中にサールナートで香雪の壁画を見る機会があり、帰国後に香雪の事績を調べていたところ偶然、長野県内で下絵が表装されたという地元紙の記事を読み、香川県文化会館に知らせるとともに香雪関係資料の有無を問い合わせてきたのです。その時に学芸員であった溝渕茂樹氏(現在野生司香雪画伯顕彰会事務局長)は早速永平寺を訪ねたところ、大庫院大広間に原寸大の下絵24枚(高さ4メートル強、長さは計44メートルとなる)の掛け軸がずらりと掛けられているのを見て圧倒されたそうです。
南澤道人師(現永平寺副貫主)は長野県出身で昌禅寺の佐藤住職の下で修業、子弟の関係にありました。その時は香雪の下絵と直接の関係はなかったものの、香雪の下絵が本山に献納された時に対面していました。南澤師は昭和58年に副寺となり、気になっていた下絵を本山で探したが、行方不明。ようやく元の倉庫で見つけて、保存修復のために再び表装されましたが、それが新聞で紹介され、それを宮川氏が読んで前述のように香雪の生まれ故郷の香川県文化会館に繋いできました。
先ずは永平寺の下絵を中心に香川県で展覧会を開催する計画が立てられ、昭和62年(1986年)に香川県文化会館で回顧展「東洋の心・インドへの熱き想い~野生司香雪展」が開催されました。仏教哲学・仏教学の世界的権威である中村元(はじめ)博士(⇦中村元東方研究所にリンク)は記念講演会において、香雪の「釈尊一代記壁画の意義」について講演され、香雪の偉業は日本画壇と日本仏教界にとって快挙であると称えられました。
令和2年(2020年)9月、南澤老師は永平寺貫主に就任され、札幌中央寺から永平寺に移られています。
展示会で「降魔成道」の図を見上げる中村元博士と、左に南澤道人師、その左の白スーツは関公男氏(香雪の次男)。ここでは8点の下図が展示されました。
長野県でも展覧会の開催可能性を探ったが、その時には実現できませんでした。しかし、信濃毎日新聞社はこの回顧展図録を元に本格的な図録集「野生司香雪 仏画の世界」を刊行しました。
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